
前回の記事では、AIを使う人間がAIの誤りを見抜けないと、AIと行うタスクの成績が下がる研究を紹介しました。
今回の研究対象は、長年にわたって判断を鍛えてきたプロ棋士です。
人間のトップ棋士を上回る囲碁AIが一般公開された後、プロ棋士が人間同士の対局で選ぶ手の質が向上しました。
研究者は、プロ棋士同士の対局で人間が実際に指した749,190手を分析しました。囲碁AIが公開される前と後の棋譜を集め、人間が選んだ一手を、AIが示す優れた手と比較したのです。
AIの公開後、プロ棋士の着手はAIが示す手に近づきました。判断上の誤りは回数が減り、誤りの大きさも小さくなったのです。
特に大きな向上が見られたのは、対局の序盤です。
囲碁の序盤には多くの選択肢があり、その後の展開も決まっていません。棋士は複数の可能性を考え、先を予測しながら一手を選びます。正解が見えにくく、高度な判断を求められる場面です。
囲碁AIの公開によって、棋士は人間がこれまで選んでこなかった手や、新しい戦略を学べるようになりました。研究者は、棋士がAIの優れた判断を学び、自分の知識へ取り込んだことが、対局の質を高めたと分析しています。(sms.onlinelibrary.wiley.com, sms.onlinelibrary.wiley.com)
この研究は、AIが人間の判断力を高める教育ツールにもなり得ることを示しています。プロ棋士はAIから学んだ内容を自分の判断へ取り込み、AIが参加しない人間同士の対局でも、以前より質の高い手を選ぶようになりました。
これからリーダーに問われるのは、AIを社員の能力を育てる教育システムとして使いこなせるかです。
AIが示した判断を理解する。自分が持っている知識と比較する。そこから得た新しい考え方を、次の仕事で自分の判断として使う。
この学び方を社員へ教育できれば、AIを使った経験が、人間側の能力として蓄積されていきます。AIを使ったあとに社員へ何が残るのか。そこまで設計することが、AI時代の人材育成になります。
新しい知識を学ぶときには、必要な情報を頭に保ち、新しい情報が入るたびに内容を更新する力を使います。
BCPでは、この働きをDual N-backという認知課題で確認しています。画面と音から入る情報を一時的に覚え、新しい情報に合わせて答えを更新する課題です。
ある利用者は、平均正答率が36.6%から72.8%へ上がりました。合計得点は459点から2,233点へ増え、課題中の前頭前野周辺の血流反応も高まりました。
AIから学ぶ機会が増えるほど、人間の脳には、情報を保持し、比較し、判断を更新し続ける力が求められます。判断力を育てる教育と、その教育を受け止める脳のケアを、一緒に考える必要があります。
次回は、判断力をめぐる記事の締めくくりです。
判断力に課題がある部下の力を育てることはできるのか。経験や環境に合わせて変化する「脳の可塑性」と、複数の領域が連携して能力を生み出す「脳のネットワーク」から、判断力が高まる仕組みをお伝えします。
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